にしのひがしの

小説家志望の女が本の感想を書いてゆくブログ。

『骨を彩る』彩瀬まる 感想

読みました。

 

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:★★★★★:

 

今やってるAmazon Kindle幻冬舎文庫セールで324円で買いました。あ、でも、Kindle版は解説がない(最後まで読んで知った)というがっかりポイントがあります。。解説だけ図書館とかで読むなりでいいって方はぜひぜひ。

凄い良かったです。文章力のある作家だなあって思いました。

台詞回しも自然でわざとらしくない。「主婦」「夫」「子供」みたいなラベルの上からキャラクターを作るんじゃなくて、括弧に収まりきらないような感情とか、計算とか、生き辛さを焦点にして書かれています。

最近「少女」を記号で書いてる作品多いですね。アニメとかならそれでいいけど、小説としては、もっと生々しい生き物として読みたいなと、わたしは思う。

「美少女」じゃない、ただの「少女」が生きてるところがみたいなと。

オムニバスなのかな、以前の話にちらっと出てきた人が主人公になっていきます。ひとりひとり生きづらさを抱えていて、その瑕疵が描かれる。

全体的に読み味がきれいで、読みやすいと思います。共感できるかどうかが鍵なのかな。作者は女性の、片親の方なのかなってちょっと思いました。

何気ない比喩や表現がすごくいいです。 高校生の女の子が、初めて告白された男の子のことを「水の味をたしかめるように」、嫌いではない、と思うとか。男性視点で、ラブホに一緒に行った彼女のことを「温かい体を光らせている女」と書くとか。

特に《古生代のバームロール》と《やわらかい骨》では、女子間の、どうにもやむにやまれない奇妙な感じ、緊張感がそこはかとな〜〜く出てる。女子の残酷さとか、弱さとか、カーストにちょっと馴染めないんだよなって感じとか。表面はまあ普通のやりとりだったり、言葉だったり、間柄だったりするんだけど、背後には一瞬即発で居心地が悪い、そのわりには容易く消えそうな関係があることとか。

「少女」が可愛いとか、清楚とか、そういう記号じゃなくて、「生きる」って生々しさにぶち込まれて、悩んだり、混乱したり、傷ついたりしている。はしたないほど弱かったり、ずるいくらい生きぎたなかったり、どんくさかったり、聡かったりする。

《ばらばら》では、語り手である女性は、少女時代、義父に対して「お父さんのふりしないで」と言うことで、「義父の一番もろくて弱い部分を踏みしだいている気分」になり、「よく研いだ短剣が柔らかい肉にめり込む手応えを感じた」ことを思い出す。彼女は、同性に対して「百合の花の匂いに似たどことない生臭さ」を感じる。先に露天風呂に入っていた女性にその匂いを感じなかったことから、その人は男性なのかもしれない(ニューハーフ?)と思う。

読んでいて、微妙な感情、感覚、視点のこまさみたいなのが生々しくていい。こう、登場人物たちと膚まで一緒になった感じ、膚まで共有してる感じが味わえます。

この作家さんは、何か、誰か、ある特定の感情やそれを抱いた人たちを救うために書いてる気がする。「普通じゃない」っていう感情かな。

どの話も丁寧に作られて、綺麗でした。表紙絵の雰囲気がよく合ってます。