にしのひがしの

小説家志望の女が本の感想を書いてゆくブログ。

女性の性についての映画〜「ノルウェイの森(2010)」感想

 

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原作:村上春樹 監督・脚本:トラン・アン・ユン 主演:松山ケンイチ

★★★★☆

 

やっと観ました。
レビュー見ると結構酷評多いですね。ハルキストとか、ノルウェイの森がすごく好きって人とかいて、原作とは比べものにならない、って結論が多い。コアなファンほどう〜んってなってる感じ。
私は、原作は10年くらい前に読んだかなって感じでした。それが却って良かったのかもしれない。ほどよく思い出しつつ、ほどよく新鮮に見れて。それに、当時中学生でまだ理解できてない点が多かったので、色々と新しい発見がありました。
評判より良かったです。あの上下巻を二時間でこれくらいやれたのはすごいと思うなー。
ポスターだけ良いのかなーとか思ってたけど、全編がポスター並み、それ以上の美しさでした。変にいやらしさがないのも良かった。最近気付いたけど、スローモーションとかこままわしとか苦手だ。
それでも、原作との齟齬を感じた点を書いて見ると。
・朝はやく起きてラジオ体操とかしてる極右(だっけ)のルームメイトはもうちょっと詳細あってもよかった、あのキワモノ感結構好きだった。
・永沢は無理があるw いや原作も充分こんな学生いないよって感じだったけど見た目からしてイタめのおっさんやん。。
・あれレズビアンっていうシーン削っちゃうんだ。でもじゅうぶん匂わせてたか。
くらいかな。
あと高良建吾いっつもこういう役な気がした。苦役列車の印象なのかなあ。ちょっとバタくさい顔立ちと、クリーンな雰囲気。
キャラ別に感想メモを書き出します。

■直子
 ずっと「私」「私」っていってるなあって思った。「わたしなりに感謝」とか、「わたしを傷つけたのはわたし自身」とか。視野が狭いね。視野が狭くて…自分だけでいっぱいいっぱいな感じ。精神病んでるというのはわかるけど。
うめき声とか泣き声がどんどん獣じみていくのがよかった。こう、何だろうね、こういう子いそうって思った。

■緑
 水原希子すごくハマってた。昭和レトロないでたちがとても似合う。濃ゆいレトロ感がオードリー・ヘップバーンみたいだった。スクール水着着てるとこはフランスの女優みたいだった。
ちゃんと口開けて喋ってくれないから何いってるかわからないところがあったけど、存在感が良かった。全能感というか、女王様というか、肉食系っていうか。
「愛してあげるの」ってところとか、自己中で。それがこの子の本質なのかなあとおもうけど。彼女は彼女なりに父親とかに抑圧されてて、振り切って生きようとしてる感じがした。

■ハツミさん
すごく印象的だった。緑と同じくらい雰囲気があっていたと思う。
成熟した女性だけれど。
シーンの後に「自殺した」ってことだけしか書かれない、情報量の少なさもいいと思った。余韻がすごかったから。
ナイーヴなひとだったのか。

 

■ワタナベ
マフラー似合うのでずっと巻いててもよろしいと思う。
すごくジェントルに勃起っていうのがちょっとおもしろかった。
ワタナベはなんでこんなに直子に惹かれるんだろう。見えてる沼な感じなのに。
病んでる女性に惹かれる男性、っていうので、「きいろいゾウ」のムコさんを思い出した。彼も小説家って設定で、ベビーフェイスで、マフラーやダッフルコートがよく似合う男性だった。それに、そういえば、あの病んだ女性の名前は緑だった。

 

■レイコさん
ワタナベと寝る前がすごく若くて艶やかに見えた。シーンごとに、その女性が映える色味の光を当ててるのかな。
原作読んだときも、なんでレイコさんとワタナベが寝るのか理解できなかったけど、やっぱりよくわかんなかった。「私がとらわれていたもの(?)」ってなんなんだ。レイコさんも患者らしいけどなんの精神疾患だったのか映画だとわからなかった。ほとんど直子のお世話係みたいだった。
ちらっとレビュー見たら、死の世界から生の世界へ〜みたいなことが書いてあったけど、もっと実感として、なんで寝たのか。多分、セラピーのようなものとしてのセックスなんだとは思う。直子の喪というか、弔いというか。
レイコさんが直子とくっついてるときの、ベタベタした雰囲気はちょっと苦手だった。女同士のああいう、三人目を排除するような雰囲気は苦手だ。ワタナベはよく平気だなと思った。

 

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直子と緑って正反対で、レイとアスカみたいだなって思った。
女の子が欲望むき出しで好きだった。「私あの時すごく濡れてたの」とか、「今度ポルノ映画に連れってくれない?」とか。なんていうか、そういうことって言えないから、苦しむっていうか。そういうことってあると思う。
ワタナベがなんでモテるのか、緑との電話のシーンでわかる気がした。緑が「ワタナベくんって優しいね」っていったとき、私も「ワタナベって優しいなあ」って思ってた。
ワタナベがなんで優しくみえるのか。女の子の欲望を否定したり利用しようとしたりしないからだと思う。鼻につく言い回し(直子に「ねえその、勿論っていうのやめてくれない?」って言われたときちょっと笑った)も大目に見てあげられる。

彼は勃起する。でも勃起するだけで、欲望を覚えてる女性のことを、征服したり、その体を使って自分を満たそうとしない。緑的にも、そんなことはされたくない。でも、自分の欲望を聞いてひっそり興奮してくれてるのは、ちょっと嬉しい。そういうことってあると思う。
直子との初めてのときはわからないけど…。でも、あれが彼女の心を毀してしまったなら、それを悔いるのは当然のことだよね。だから彼はそういう態度を取ってたんだろうか。
でも、「場所わきまえてくれよ…」って緑に言ったときは幻滅したし傷ついた。何でワタナベはそんなこと言えるんだろうって思った。ワタナベのそういう面を信頼してたのに、何なん、と思った。何で彼はあのときああ言ったんだろう、言っちゃいけないことばのはずだったのに。あんなスカした感じのくせに、今更TPOとか気にするんか。ダサい。

 

うまくまとめられないけれど、見ていて「ノルウェイの森」って、男性視点だけど女性のための話だって気がした。女性の性の話なんじゃないか。


直子とワタナベの最初のベッドシーンを見てて、「セックスって体のなかに侵入(はい)ることなんだな」ってふと思った。直子の大きなうめき声を聞いて。苦しげな。女の人は体の中に侵入されて身ごもって、体の外に排出して出産する。それってどういうことなんだろう。重すぎる大きな荷物だって人もたくさんいるんじゃないか。でも逆に、それってものを食べて、おしっこやうんちを出すのと何が違うんだろうとも思う。

ラストの「僕は今どこにいるんだろう」は、通して感じてきた空虚感みたいなものを口に出した感じがして、おかしいとは思わなかった。色々な意味で、今どこにいるのかわからなくて、わからないし、わからないでゆくのだろう。直子と、キヅキの穴を塞がれないまま。