にしのひがしの

小説家志望の女が本の感想を書いてゆくブログ。

『すばる』2017年11月号感想走り書き(第41回すばる文学賞受賞作品+佳作感想)

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読みました。うーん。。どっちも微妙でした。賞ごとの傾向はあるんでしょうが、完成度においても文章のレベルにおいても『蛇沼』(新潮新人賞)『青が破れる』(文芸賞)のほうがよかったと思います。 

(それぞれの感想ページはこちら↓)

 

 
山岡ミヤ『交点』第41回すばる文学賞受賞

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内容は、つらい。ひたすらつらい。ずっと気になるのは文章の違和感。語り手の女性のキャラの印象と地の文がマッチしていない。そこに詩人であるという作者の顔が透けている。「『ぺちっと・ぴえ・あぷれ』と英語で書かれた袋の〜」というところは英語じゃなくてアルファベットのとすべきだろうと思ったし、他にもいろいろとはみ出しているところがある。「ペール・ブルー」という言い方にも違和感がある。この子はペール・ブルーなんて言葉がすらっと出てきそうではない。東直子の小説の処女作を読んだときもそうだったが、詩人の方が小説を書くと一人称の視点にわりと粗があって甘い。

あと季節が冬というのに最後まで馴染めなかった。小説世界とあってないという気がする。夏のほうが良い気がした。そっちの方が自分の血液の脈動も、土の中の冷たさも、冷蔵庫で働くというカムオのエピソードも、体感的に映えるだろう。臭いについての描写が多いので、それも夏の方が自然な効果があったと思う。

好きな男と結婚するためだけに子供をつくった母親とその娘。「受け入れてしまう」ということの底のなさ、業、理不尽さ、恐ろしさ、宿命、というのがひしひしと身に迫る。母親の語り口が生々しすぎて強烈で、彼女だけが邪悪な力にもとづいて小説の中で活きている感じがする。彼女は家庭だけでなくこの小説を担い、支配している。その恐ろしい力はありありと描かれている。

このヒロインとだいぶ似ている女の子を知っているので、読んでいて本当につらかった。田舎の閉塞感と毒母のダブルパンチはきつい。終わりもない。親が死ぬまで。それまでこの子は、薄ぼんやりした闇にぽつんと蛍より弱い光を浮かべて居て、ずっと独身かあんまり心が通い合わない男性と一緒になるかするんだろう。。。

内容にとかく救いがなくて、救いがないこと自体がテーマというか、作品世界が暗示していることで、だから、読んだ!いい小説だね!とは私には言えない。この絶望的な世界を小説で提示するにはまだ文章が未熟な感じがある。ちがうテーマでもうちょっと文章を小説になじませて書いてみてほしい。

 

兎束まいこ『遊ぶ幽霊』(佳作)

うーん。。いや漱石好きなんだろうな…って思った。あとは長野まゆみとか。でも話に起伏がないし、内容は浅くてだいぶだらだらしていると思った。弟が女性的に描かれすぎていて、これを一般文芸で出すならせめて妹の設定にしてほしかった。ただ作者はそう言うの好きな人なんだと思う。読んでいて百年とか吾輩は猫であるとか明け透けすぎじゃないか。婀娜っぽいとか、果敢ないとか使いたいだけなんじゃないの? って気がしてきてしまう。PixivにこれよりうまいニアBL耽美純文学風の小説を書く人はたくさんいることを知ってしまっているので、これが佳作かあ、ってなっちゃった。

出だしは良かったので期待した。あと蟹男のくだりはちょっと面白かった。ここから面白くなるかなあ、でもちょっと遅いな、って思った。獣男とか、埃で時間の歪みを描くとかも、ほうほうと思ったけど、『百年泥』の奇想には質量ともに遠く及ばない。どっちかといえばこの作品は純文というよりはラノベ寄りのものなのかもしれない。ビブリア古書堂の事件簿とか。だとすると私の好みとは路線が違うなあ、でも、この人の本を読むなら、長野まゆみを読むよなあ。これから次第かな、という感じでした。